アジャセの救い
大学でアジャセについて講義しました。
アジャセは王になりたくて、父王を牢に閉じ込めました。母がこっそり食べ物を運んでいることを知ると、母に斬りかかろうとしました。ギバ大臣たちに説得され、殺すのは思いとどまりましたが、母も幽閉してしまいます。その七日後、父は餓死しました。
しかしその後、アジャセは病気になってしまいました。体中一面に悪臭を放つ腫れ物ができたのです。父が死んで初めて、自分の犯した罪の重さに気付かされたのでした。
悪臭に耐え、薬を塗って看病してくれたのは、母でした。またギバ大臣がアジャセを支え、釈尊に遇うことを勧めました。その時アジャセに、子を思う亡き父からの言葉が聞こえてきました。釈尊なら救ってくれる、と。
アジャセは釈尊の所へ行きました。釈尊の教えを聞くことで、アジャセは自分のことしか考えていなかった自分が、どれほど願われ愛されていたのか、気付いていきます。仏なんて信じたこもなかったアジャセに、こんな自分を救おうとしている仏がいるという信心が生まれてきたのでした。
講義後、ある学生からこんな感想を受け取りました。
「昨日、実家から遊びに来ていた親と、くだらないことで喧嘩してしまい、「死ね」と言ってしまいました。その後、自分の部屋に帰ってみると、キレイに掃除され、食べ物がたくさん置いてありました。それを見た瞬間、うれしいのと、ひどいことを言ってしまったという後悔で、涙が止まりませんでした。すぐにメールで謝りました。昨日からずっと涙が止まりません。私もアジャセと一緒だと思います。今日の授業でまた一つ、気づかされました。本当にありがとうございます」
誰もが、願われ、愛されています。でも、そのことになかなか気付けない私たちです。しかし、そういう私たちであるからこそ、仏は決して見捨てることなく、呼び続けてくださっています。自分がアジャセであることに気付いてさえいない私を救うために。
「よびごえ」第52号 春彼岸号 (平成22年3月15日刊)